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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)801号 決定 1977年11月11日

抗告人(債務者)

笠利進

右代理人

中村嘉兵衞

相手方

瀧田紀一

主文

本件抗告申立を却下する。

理由

本件抗告の趣旨ならびに理由は、別紙即時抗告の申立書記載のとおりである。

本件抗告申立に至る経緯は、記録によれば、別表記載のとおりである。

債権の差押・転付命令は、執行債権者がこれにより自己の危険負担において排他的に債権の満足を得る手段として法が認めたものであるから、右命令は、それが第三債務者に送達された時に確定的に効力を生じ、執行債権につきその限度で弁済の効力を生ずるとともに、強制執行手続も完了し、これに対しては民事訴訟法五五八条による即時抗告を申し立てる余地はないものと解すべきである。もつともこのように解すると、執行債務者が右命令の発出前にすでにその基本となつた債務名義につき執行停止の裁判を得ていたような場合には、あらかじめその裁判の正本を執行裁判所に提出して右の執行を阻止することが事実上極めて困難である関係上、折角かかる裁判を得ていてもその目的を達することができないという不当な結果を生ずることとなるが、そうかといつてこのような場合についてのみ即時抗告を認め、抗告裁判所に右執行停止の裁判の正本を追完提出することによつて差押・転付命令の取消を得る途を開くときは、結局右の場合にのみ例外的に手続の完了後にすでに効力を生じている執行裁判所の執行処分の取消を認める結果となり、理論上も実際上も妥当とはいい難く、かかる見解を採用することはできない。

本件においては、相手方が本件債権差押・転付命令を申請するより八か月以上も前に抗告人においてその基本となった確定判決に対する請求異議の訴の提起に伴う執行停止決定を得ていたものであるが(ただし、右執行停止決定の相手方は外国に居住する外国人である関係から右決定の正本の送達がおくれ、本件差押・転付命令申請当時には未だ送達が完了していない状況にあつた。もつとも、右命令の申請人である本件抗告の相手方は右確定判決にかかる債権を債権者から取得し、右判決につき承継執行文の付与を得て本件申請に及んだものであり、上記執行停止決定正本は、本件即時抗告がなされた日に相手方代理人に交付されている。)、上記説示の理由により本件抗告を適法とすることはできない。よつてこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(中村治朗 石川義夫 高木積夫)

(別表)

昭和年月日

事項

49.10.29

東京地方裁判所昭和四七年(ワ)第四三五九号預り金返還請求事件の判決言渡

(原告はダトウサイド イブラヒム ビン オマー アルサゴフ、被告は本件抗告人、

主文「被告は原告に対し東京都内において

金一、〇〇〇万円及びこれに対する昭和四三年八月二六日から支払ずみまで

年五分の金員を支払うべし。…(中略)…この判決は第一項に限り原告において

金二五〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。」)

49.10.31

右判決正本抗告人に送達

51.7.6

ダトウサイド イブラヒムビン オマー アルサゴフに対し右判決の執行文付与

52.1.14

東京地方裁判所本件抗告人の申立により三〇〇万円の保証を立てさせたうえ、

前記判決の執行力ある正本に基づく強制執行を停止する旨決定(東京地方裁判所昭和五二年(モ)第三九九号)、右決定正本抗告人代理人に送達

52.9.21

本件相手方に対し承継執行文付与

〃.〃.22

右承継執行文本件抗告人に送達

〃.〃.29

本件相手方本件債権差押ならびに転付命令を申請、右命令発付

(東京地方裁判所昭和五二年(ル)第七七九号、同年(ヲ)第八五一号)

〃.〃.30

右差押転付命令正本第三債務者国ならびに本件抗告人に送達

〃.10.5

本件即時抗告申立、前記強制執行停止決定正本、

前記昭和五二年(モ)第三九九号事件の相手方代理人宛送達

以上

即時抗告の申立書<省略>

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